「恋愛をしに来る場所ではありません」
初デートを終えて、
私は、ますます分からなくなっていました。
「この人と結婚できるんだろうか…」
それとも、
「恋愛感情がないなら、
もう会わない方がいいんだろうか…」
居心地はとてもよかった。
素直に楽しかった。
でも、
恋愛のようなドキドキやワクワクといった、
大きな感情の揺れはありませんでした。
結婚相談所で知り合った人。
今まで経験したことのない出会い方に、
私はかなり戸惑っていました。
恋愛に発展する気がしない…
やっぱり年齢が離れていると、
恋人として見れない…
どうしよう……。
そんな思いを抱えていた頃、
「カリスマ婚活アドバイザー」と呼ばれる方が
テレビによく出演されていました。
その方は、いつもこう言っていました。
「結婚相談所は恋愛をしに来る場所ではありません。」
その言葉に衝撃を受けました。
私は、
恋愛がしたくて婚活を始めたはずでした。
好きになって。
付き合って。
その先に結婚がある。
ずっと、そう思っていました。
でも、
結婚相談所では、
その順番が少し違う。
「この人と人生を歩めるか。」
それを先に考える世界でした。
私はまだ、
その考え方に心が追いついていなかったんです。
だから、
「え?恋愛の先に結婚があるんじゃないの?」
そう思いました。
きっと、多くの人がそう思うのではないでしょうか。
私は、とんでもない場所に足を踏み入れてしまったのではないか。
そんな不安さえ感じていました。
まだ2回目なのに…
仮交際2回目のデートは、1週間後。
行き先は淡路島でした。
実は結婚相談所では、
最初の1〜2回は2時間ほどのランチデート。
「まだ話し足りないな…」
くらいで終えるのが理想だと教えられていました。
3回目くらいから少し長めのデート。
半日デートは、
もう少し関係が深まってから…
そう教わっていました。
だから私は、
「まだ2回目のデートなのに淡路島なんて…」
そんな不安もありました。
でも、ゴールデンウィークというタイミングもあり、
夫が自然な流れで誘ってくれたので、
今思えば、とてもいいタイミングだったのかもしれません。
本当に信用して大丈夫?
淡路島デートまでの間も、
LINEは毎日続いていました。
「この車で迎えに行きます。」
そう言って車の写真を送ってくれたり、
「日差しが強そうなので、
サングラスがあった方がいいですよ。」
と教えてくれたり。
優しくて気遣いのできる人。
そんな印象は変わりませんでした。
そして迎えた当日。
夫は家の近くまで迎えに来てくれました。
でも、
やっぱり服装は私の好みではありません。
サングラス姿を見た時は、少し怖くも感じました。
お見合いを含めても、まだ会うのは3回目。
そんな人の車に乗ることには、
やっぱり少し勇気がいりました。
「本当に信用して大丈夫なんだろうか…」
もちろん、結婚相談所は身元確認もしっかりしています。
それでも心配性な私は、
少し警戒したまま助手席に乗り込みました。
ところが、その不安とは裏腹に、
夫は車に乗った瞬間から変わらず私に気遣ってくれました。
「座り心地は大丈夫ですか?」
「暑くないですか?」
「喉は乾いていませんか?」
その優しさは、
お見合いの日から何も変わりませんでした。
心だけが追いつかない
完全に二人きりになるのは初めて。
夫の運転する車に乗るのも初めて。
私は思っていた以上に緊張していました。
そんな私に、
「少し長い距離を走るので、
楽にしていてくださいね。」
そう声を掛けてくれました。
夫は、とても運転が上手でした。
私は普段、
人の車に乗ることがほとんどありません。
だからこそ、
夫の丁寧な運転を見ていて、
不思議なくらい安心感がありました。
高速へ向かう途中、
「コンビニでコーヒーでも買いましょうか。」
そう言ってくれました。
目的地へ向かうだけではなく、
その道中まで楽しもうとしてくれている。
その気遣いは素直に嬉しかった。
だからといって、
胸がドキドキ高鳴るわけではありません。
優しい人。
本当に優しい人。
一緒にいると安心する。
でも――
私が思い描いていた恋愛とは、
どこか違う。
そう思うたびに、
少し前へ進んだ心が、
また元の場所へ戻される。
そんな感覚でした。
こんな人は初めて…でも…
車内ではミスチルが流れていました。
「ミスチル好きなんですか?」
そう聞くと、
「いや……なんとなく入れてみただけなんですけど。」
と照れながら答える夫。
ちょうど私の好きな曲が流れたので、
「私、この曲好きなんです。」
そう伝えると、
「じゃあ少し音を大きくしますね。」
そう言って、音量を上げてくれました。
ほんの小さなこと。
でも、
私が好きだと言ったことに対して、
すぐに行動に移してくれたことが嬉しかったんです。
こんな小さな気遣いを、
自然にできる人なんだ。
そう思いました。
そして、
「あ、この人となら自然体でいられるかもしれない。」
そんな感覚が初めて生まれました。
不思議でした。
ドキドキはしない。
手をつなぎたいとも思わない。
でも、
一緒にいると、
無理に話題を探さなくても苦しくない。
沈黙になっても、
焦らない。
「早く帰りたい。」
そんな気持ちにもなりませんでした。
それでも、
外見に対する引っ掛かりは、
最後まで消えませんでした。
横顔を見るたびに、
「やっぱりタイプじゃない。」
「恋愛とは違う。」
そんな現実を、
何度も思い知らされるんです。
恋愛は想像できないけど…
サービスエリアでは、
二人でお土産を見て回りました。
「これ美味しそうですね。」
「これ人気みたいですよ。」
そんな何気ない時間が、とても新鮮でした。
正直なところ、
恋人として手をつないで歩く姿は、
想像できませんでした。
でも、
結婚して、
休日にスーパーへ行って。
夕飯の献立を相談して。
テレビを見ながら笑って。
そんな何気ない毎日は、
なぜか自然に想像できたんです。
恋愛は想像できない。
なのに結婚生活は不思議なくらい想像できる。
そんな相手に出会ったのは、
この人が初めてでした。
心に残ったのは優しさだった
渋滞で予定より遅れて、
ようやく淡路島へ到着。
ゴールデンウィークということもあり、
お店は30分待ちでした。
待ち時間も、
メニューを見たり、
食後の予定を話したり。
そんな時間が自然に流れていました。
窓際の席へ案内され、
海鮮丼を食べながら景色を眺めました。
向かい合って座ると、
夫はどこか落ち着かない様子。
目が合うと、
少し照れたように視線をそらします。
「あ、この人も緊張していたんだ。」
そう思うと、
なんだか少し安心しました。
今思えば、
お見合い以来、
真正面で話すのは久しぶりだったんですよね。
海鮮丼も美味しかった。
景色も綺麗だった。
でも、
この日一番心に残ったのは、
車の中でも、
サービスエリアでも、
食事中でも、
夫が変わらず自然に気遣ってくれたことでした。
答えは出ないまま…
恋愛感情は、
まだありません。
それでも、
夫と一緒にいる時間は、
少しずつ特別な時間になり始めていました。
安心できる。
尊敬できる。
居心地もいい。
ここまで揃っているのに、
私の心だけが、
追いついてくれませんでした。
「恋愛感情がないまま、
この人と会い続けていいんだろうか。」
私の心は、
まだ答えを見つけられないまま、
淡路島デートは続いていきました。
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