少し近づいた。でも、恋人ではなかった
焼き鳥屋さんを出ると、
夫は自然に駅まで一緒に歩いてくれました。
お見合いの日や、
待ち合わせをした時と比べると、
二人の距離は、
確かに近づいていました。
最初は少しぎこちなかった会話も、
帰る頃には、
「次は淡路島ですね。」
「海鮮丼、楽しみですね。」
そんな話を笑いながらできるようになっていました。
たった2時間。
それなのに、
初対面だった人とは思えないくらい、
自然に話せるようになっていました。
婚活では、
「早くこの時間が終わらないかな。」
そう思ってしまった相手もいました。
でも、この日は違いました。
もう少し話していたい。
そう思えるくらい、
一緒にいる時間は心地よかったんです。
でも――
隣を歩く夫を見ても、
「彼氏と歩いている…」
そんな感覚には、
どうしてもなれませんでした。
そんな距離感のまま、
駅へ向かって歩いていました。
この心地よさは、
恋愛なのか。
それとも、
ただ安心しているだけなのか。
その違いが、
私にはまだ分かりませんでした。
電車の中で、答えが見えなくなった
一人で電車に乗ると、
デート中には気づかなかった疲れが、
少しだけ押し寄せてきました。
もしかすると、
自分では自然に過ごしているつもりでも、
知らないうちに気を張っていたのかもしれません。
窓の外を眺めながら、
今日のデートを何度も思い返していました。
デートは楽しかった。
笑っていた時間も多かった。
居心地も良かった。
それなのに、
恋愛感情だけが湧いてこない…
「いい人だった。」
「でも好きじゃない。」
この二つが、
私の中で何度もぶつかっていました。
見た目を気にしてしまう自分。
恋愛感情が湧かない自分。
どちらも受け入れられず、
頭の中は、
本当にぐちゃぐちゃでした。
思い出すのは、優しさばかり
不思議だったのは、
家へ帰る頃になると、
外見よりも、
夫の優しさばかり思い出していたことです。
料理が届けば、
食べやすいように並べてくれたこと。
「先に食べてください。」
と自然に声をかけてくれたこと。
荷物を置く場所まで気にしてくれたこと。
どれも特別なことではありません。
でも、
私を気遣うことが、
すべて自然でした。
優しさをアピールするためではなく、
それが当たり前の人なんだ、と。
だからこそ、
電車の中で思い出すのは、
外見ではなく、
そんな何気ない優しさばかりでした。
次の楽しみを、一緒に考える時間
食事をしながら、
自然と次のデートの話になりました。
LINEで話していた、
ゴールデンウィークの淡路島デート。
「海鮮丼を食べに行きましょう。」
「海沿いをドライブして、カフェにも寄りましょう。」
そんな話をしながら、
二人でスマホを見て、
お店や景色のきれいな場所を探しました。
私は、
「淡路島まで運転、大変じゃないですか?」
と聞きました。
すると夫は、
「全然大丈夫ですよ。
海沿いを走るのが好きなんです。」
と笑って答えました。
今思えば、
「大丈夫ですよ。」
ではなく、
「自分が好きだから。」
と言ってくれたことで、
私が気を遣わなくて済むようにしてくれていたんですよね。
その優しさが、
とても嬉しかったことを覚えています。
そして気づけば、
私自身も、
次のデートが少し楽しみになっていました。
数時間前まで、
「この人とは難しいかもしれない。」
そう思っていたはずなのに…
人の気持ちって、
本当に不思議なものです。
「優しい人」から少し変わった日
仕事の話もしました。
私が仕事内容を話すと、
夫は、
「すごいですね。
僕には絶対できない仕事です。」
と言ってくれました。
正直、
私の仕事は特別なものではありません。
でも、
夫は私の仕事を否定せず、
きちんと認めてくれました。
婚活では、
自分の話ばかりする人にも、
たくさん出会いました。
だからこそ、
相手を尊重する言葉を自然に言える夫が、
少し眩しく見えました。
人の良いところを、
ちゃんと言葉にできる人なんだ。
「優しい人…」
そんな印象だった夫が、
少しだけ変わりました。
恋愛感情ではありません。
でも、
「この人を尊敬できるかもしれない。」
そんな気持ちが、
初めて生まれた瞬間でした。
「美味しいね」が同じ人
焼き鳥を注文していた時、
私が、
「皮と肝が好きなんです。」
と言うと、
夫も、
「僕も好きです。」
と笑いました。
皮も肝も、
好き嫌いが分かれる食べ物です。
だからこそ、
「一緒なんですね。」
その小さな共通点が、
なんだか嬉しく感じました。
そのあとも、
「他には何が好きですか?」
そんな話をしていると、
好きな食べ物が驚くほど似ていました。
少し濃い目の味付けが好きなところまで同じ。
私にとって、
食事の時間は特別な時間です。
ただお腹を満たすだけではなく、
「美味しいね。」
そう言い合いながら、
同じ時間を過ごせることに幸せを感じます。
だからこそ、
食の好みが似ていることは、
思っていた以上に嬉しいことでした。
もしこの人と暮らしたら、
今日みたいに、
「これ美味しいね。」
そんな会話をしながら、
毎日食卓を囲むのかもしれない…
休日には一緒に買い物へ行って、
「今日は何を作ろうか。」
そんな何気ない会話を交わす日が来るのかもしれない…
そんな日常を、
この日初めて少しだけ想像していました。
恋じゃない。でも、また会いたい
帰りの電車でも、
家に帰ってからも、
考えていました。
恋愛感情はない。
それなのに、
また会いたいと思っている。
この二つの気持ちが、
私の中で何度も入れ替わっていました。
見た目は気になる…
でも、
一緒にいると安心する。
結婚は、
恋愛だけでするものなのか…
それとも、
居心地の良さで選ぶものなのか…
優しさなのか。
尊敬なのか。
安心なのか。
私は、
何を求めて婚活をしているんだろう。
そして、
私は何を基準に、
結婚相手を選べばいいんだろう。
正解なんて、
まだ分かりませんでした。
ただ一つだけ確かなのは、
今日のデートは、
間違いなく楽しかった。
それだけは、
何度考えても変わりませんでした。
だからこそ、
恋愛感情がない自分に、
私は戸惑っていたんだと思います。
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