待ち合わせで夫を見た瞬間。
正直、私はショックを受けました。
「この人と、本当に交際を続けられるんだろうか。」
お見合いで感じた安心感は、
ほんの数秒で揺らいでしまったんです。
そんな複雑な気持ちのまま、
私たちは焼き鳥屋さんへ向かいました。
でも――
この日のデートは、
私の気持ちをさらに複雑にしていくことになります。
最初に見えた、夫らしさ
焼き鳥屋さんは、駅から少し離れた場所にありました。
二人でスマホの地図を見ながら、
「あっちかな?」
「こっちじゃないですか?」
なんて話をしながら歩いていたのを覚えています。
ようやく見つけたお店は、
屋台のような雰囲気のある、
昔ながらの焼き鳥屋さんでした。
私はこういうお店が好きなので、
「美味しそう。」
と素直に思いました。
でも夫は、
思っていた雰囲気と少し違ったようでした。
少し申し訳なさそうな表情で、
「このお店で大丈夫ですか?
もし違うお店がいいなら変えましょうか。」
と言ってくれたんです。
私は全く気になりませんでした。
むしろ、こういうお店の方が落ち着きます。
「私はこういうお店好きですよ。
早く入りましょう。」
そう言って、一緒に店内へ入りました。
ぎこちなさが、少しずつ消えていく
カウンター席に案内され、
私はウーロン茶、
夫はビールを注文しました。
「お酒が飲めないので、
ウーロン茶でもいいですか?」
そう言うと、
「もちろんです。」
と笑顔で答えてくれました。
そんな何気ない返事にも、
どこか安心したことを覚えています。
料理を注文して待っている間は、
正直、少しぎこちない空気でした。
お互い、
「何を話そうかな。」
そんなふうに探り合っているような時間。
でも料理が運ばれてくると、
「これ美味しいですね。」
「焼き鳥は久しぶりですか?」
そんな他愛もない話が自然と始まりました。
優しさは、言葉より行動に出る
デート中、ずっと感じていたことがあります。
それは、
夫がとても気を遣ってくれる人だということでした。
席へ案内されると、
「荷物はこちらへ置いてください。」
「席、狭くないですか?」
料理が届けば、
食べやすいようにお皿を並べてくれたり、
「先に食べてください。」
と声をかけてくれたり。
どれも特別なことではありません。
でも、
「私が居心地よく過ごせるように。」
そんな気持ちが伝わってくる気遣いばかりでした。
その優しさに、
少しだけ心がほどけていく自分がいました。
頑張らなくていい時間
お見合いの時にも感じていましたが、
夫は、おしゃべりが得意なタイプではありません。
だからといって、
私が必死に話を盛り上げなくてはいけない…
そんなこともありませんでした。
少し話して、
少し沈黙があって、
また少し話す。
その繰り返し。
不思議なくらい、その時間が心地よかったんです。
婚活では、
「会話を続けなきゃ。」
「沈黙は気まずい。」
そんなプレッシャーを感じることがよくありました。
でも夫とは違いました。
無理に頑張らなくても、
自然と同じ時間を過ごせる。
婚活で出会った人の中で、
「一緒にいて疲れない。」
そう思えたのは、夫が初めてでした。
それでも、現実に引き戻される
それでも、
私の頭の中から、
待ち合わせで受けた衝撃は消えてくれませんでした。
サイズの合っていないTシャツ。
年齢以上に老けて見える印象。
会話をしている時は、
不思議なくらい気にならないんです。
でも、
ふと顔を見るたびに、
「やっぱり違うかもしれない。」
その気持ちが、
また頭をよぎってしまう。
一緒に食事をしながらも、
私の頭の片隅では、
「周りから私たちはどう見えているんだろう。」
そんなことばかり考えていました。
夫婦に見えるのかな。
親子に見えるのかな。
会社の上司と部下だと思われているのかな。
昔から私は、人の目を気にする性格です。
だからこそ、
周りの視線を勝手に想像してしまい、
そのたびに胸が苦しくなりました。
頭と心が、バラバラ…
もちろん、
見た目だけで人を判断してはいけない。
そんなことは分かっています。
服装なんて変えられる。
大事なのは中身。
何度も自分に言い聞かせました。
でも、
心はそう簡単についてきてくれません。
正直、夫の見た目は私のタイプではありませんでした。
しかも、実年齢よりも年上に見えてしまう。
「見た目だけで判断するなんて最低。」
何度も自分を責めました。
でも、
頭では分かっていても、
心は動いてくれません。
私って、
こんなに見た目を気にする人間だったんだ…
その事実が、一番ショックでした。
でも、
結婚相手として考えようとすると、
どうしても見た目を無視することはできなかったんです。
「見た目がすべてじゃない。
でも、見た目も大切。」
それが、この時の正直な気持ちでした。
ここで終わらせたくなかった
40歳の婚活。
相手に理想ばかり求められる立場ではない。
そんなことは、自分が一番よく分かっていました。
だから、
見た目だけで判断してはいけない。
相手の中身を知る努力をしよう。
そう思っていました。
婚活を続ける中で、
私は一つだけ学んでいたことがありました。
相手を知ろうとしなければ、
私のことも知ってもらえない。
見た目だけで終わらせてしまったら、
私自身も、
誰かに見た目だけで判断されても文句は言えない。
だから私は、
もう少しだけ夫を知ろうと思いました。
恋じゃない。でも嫌じゃない
不思議なデートでした。
居心地はいい。
会話も自然。
こんなに一緒にいて疲れない人は、
婚活を始めてから初めてでした。
それなのに。
どうしても恋人には見えない。
胸も高鳴らない。
「好き。」
その感情だけが、
私の中にありませんでした。
夫と話している時間は楽しい。
でも、
恋人とデートをしているというより、
会社の優しい上司と
食事をしているような感覚でした。
安心する。
気を遣わない。
居心地もいい。
でも、
恋愛とは違う。
その違いが、
私にはどうしても埋められませんでした。
恋愛感情って、何なんだろう
気づけば、2時間ほどのデートはあっという間に終わっていました。
会話は自然でした。
居心地もよかった。
優しい人だということも分かりました。
でも――
恋愛感情はありませんでした。
ドキドキもしない。
「もっと一緒にいたい。」
そんな気持ちとも少し違う。
どちらかというと、
年上の上司。
頼れる親戚のおじさん。
そんな存在に近い感覚でした。
優しい。
安心できる。
一緒にいて疲れない。
それなのに、
「好き」という気持ちは、まだどこにもありません。
焼き鳥屋さんを出て、
駅まで並んで歩きました。
隣にいる夫は、
相変わらず優しくて、
居心地もよかった。
でも――
恋愛感情だけは、
最後まで芽生えませんでした。
一緒にいて安心できる人…
それなのに、
結婚相手として見られない。
私は何を求めているんだろう。
恋愛なのか。
安心なのか。
条件なのか。
それとも、
まだ自分でも気づいていない何かがあるのか…
答えは出ないまま、
私は電車に乗りました。
窓の外をぼんやり眺めながら、
頭の中では、同じ問いだけが何度も繰り返されていました。
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